料理において塩加減はとても重要です。わずかな塩の量で味は大きく変わります。料理はたった一振りの塩で美味しくも不味くもなる。とても奥深いです。塩振りのスタイルは料理人によってそれぞれ違うのですが、僕はもうずっと〝指〟で塩を振るスタイルです。指先の感覚で塩の量を調節するわけです。
一時期、塩加減でとても悩んだ事がありました。〝美味しい〟と感じる塩加減には個人差があり、薄味が好みの方も入れば、塩気が強いものを好む方もいる。しかも薄味が好みといっても〝薄味〟にも個人差があるのでどの塩加減をもって薄味なのか?は分からない。
つまり信じられるのは自分の舌だけ。プロは目まぐるしく入るオーダーをこなしながら的確に素早く味をキメていかなければなりません。少しでも迷いがあると味がブレてしまう。
僕は京都で働いていた時、かなり塩加減に迷いがあったように思う。常に自分のなかで〝この塩加減は適切なのか?〟という悩みがついてまわっていたし味もブレていただろうと思います。
しかし、自分の中で適切な塩をふれるようになってきたな、、と思い始めてきた瞬間がありました。それは後輩の味のチェックをするようになってから。
後輩が出来ると味のチェックは先輩の仕事。仕込み時のチェックはもちろんですが、忙しい営業中でもチェックは必ずやります。しかしこの味チェックが僕はとても苦手でした。他人が作った料理の味見は思いのほか難しい。何かが足りないな、、、?と思えても〝何が足りなてないのか??〟が分からなかった。
塩を足すか、少し甘みをたすべきか?コクがないのでニンニクオイルをたすか?味が濃いからお湯をたすのか?生クリームを足すか?もう少し煮詰めるべきか?フライパンをあと5回くらい振るか?などなど様々な選択肢の中から瞬時に判断して味を整えなければならず、ここで迷うともうダメ、スピードが命!
最初は本当に分からなくてチェックがキツかった。仕上がってきた料理が、何でこんな味に???てな感じで調整しまくらないといけない事も。最悪の場合作り直しですが、それはものすごいタイムロスにも食材のロスにもなるので何とか修正してお出ししなければなりません。はじめは必死でした。
でもチェックを重ねるうちにだんだんと、何が足りてないか?が分かるようになってきたのです。味をみた瞬間に適切な選択肢を素早く選ぶことが出来るようになってきました。
他人の料理の味見は客観的に出来るからか、自分で作った料理を味見する時よりも感覚が磨かれていく感じがありました。
後輩のチェックをし始めてから、あれだけ迷っていた塩加減もかなり自分のなかで確立していったように感じます。これが分かると料理は一気に楽しくなっていきました。
どんなに忙しくてもスピード感を持って味をキメていける!ブレることがなくなる!イメージ通りの味に仕上がった時は本当に気持ちがいい。
熟練してくると味見はほとんど必要無くなってきます。感覚でいつもの味にほとんど無意識で仕上げることができるからです。
僕はまだそこまでの腕はないので味見は絶対にしますが、いつかその域まで達してみたい。
最近お客様に〝いつも味がブレないね!〟とお褒めの言葉を頂き僕はとても嬉しかった。人生も味もブレないことは大切だと思うのです。